投稿日 : 2017.5.10
記事 : 平野 美穂
花が咲いたような刷毛目。しっかりと削られた高台。肩の張った大壷に美しく入った飛び鉋。坂本浩二さんの器を手に取ったとき、「どうして手でつくっているのにこんなに綺麗なんだろう」と思ったことを覚えています。
坂本浩二さんは小鹿田を代表する陶工であり、坂本浩二窯は2斗、3斗壷など今の小鹿田で伝統的な大物をつくることができる唯一の窯でもあります。 途絶える心配のあった大物づくりを継承してもらおうと、浩二さんと30年近く二人三脚で歩んだ久野恵一さんはこのように語っています。
私は一人の名工を育て上げたと自負している。私は浩二君と終生つき合っていくことになると思う。私がこれまでストックしてきた古唐津などの九州の優れた焼き物を彼に託したりして、これからも小鹿田の伝統的な良い物が、永遠に続けていけるようなことを図ってみたいなと思う。小鹿田の人たちと交流することにより、浩二君のようなつくり手が育ったし、その原動力に私がなったということが喜びであり、自分の仕事の意義というものを確信できたと言える。
久野さんと歩む旅を経て、今や誰もが認める技術の持ち主となった浩二さんの根底にあるものに触れたいと思い、今回の旅でお話を伺いました。
- 平野(以下H):
- 何歳のときに陶工になりましたか?
- 坂本浩二(以下K):
- 18歳のときに嫌々でなりました。
- H:
- 辞めたいと思ったことはありますか?
- K:
- 選んだからには責任を取らなくちゃいけないですから。人のせいにして理想ばかり言ってたらだめだと。
- H:
- 大物づくりはその頃からやっていたんですか?
- K:
- 21か22のとき久野さんや先輩に「できるか」と言われて。悔しかったけど、陶工は文句を言葉じゃなくて器で出さなきゃいけない。だからできるまで努力しました。

窯出しされたばかりの浩二さんの大物。
- H:
- 久野さんとのやりとりで印象に残っていることはありますか?
- K:
- 久野さんは一つ一つを見て、思ったことを伝える人でした。その時になんでダメなんだ?って聞いたのがよかったと思います。聞くのが恥ずかしいって言う人もいるけど、自分は聞かない方が恥ずかしい。やっぱり出来ないものを出来ないっていわないとダメでしょう?全部イエスって言ってたらいいものは出来ない。言い合いもしましたよ。民藝だなんだっていうけど「俺の見る目とあんたの見る目は違うんだ」って言って(笑)。
- H:
- 小鹿田ですごいと思う人は誰ですか?
- K:
- 誰か一人がすごいというのはないです。先人の知恵で今の小鹿田焼があると思っています。いいなと思うのは(坂本)茂木さんと(黒木)力さん。オリジナリティがあるから。人と全く同じものを作っても意味がないんです。同じがよければ無印とか百均の器でいい訳で。無意識に感覚で人と違うものを出せるのがすごい。
- H:
- これから挑戦したいことは?
- K:
- これからは徐々に注文を息子に任せていって、自分の思ったものをつくりたいです。

息子の拓磨さん。
- H:
- 隣に(息子の)拓磨さんが座ってから何か変わりましたか?
- K:
- 仕事場が明るくなりました。親父が隣にいるのと違って息子にはなんでも聞けるから感謝してます。
- H:
- 拓磨さんも大物づくりを頑張っていますね。
- K:
- 職人と作家の違いはバトンを渡すかどうかだと思ってます。親の言うことをそのまま聞いて同じことしてたら大物は出来ない。喧嘩してでも片思いでもいいから伝えることをしないと。
- H:
- 突然ですが好きな食べ物は?
- K:
- ハンバーグです。小さい頃は絶対食べられなかったから。
- H:
- 他の窯で好きなつくり手さんはいますか?
- K:
- 森山さん(森山窯の森山雅夫さん)。ものに対する姿勢が本当に細やか。もので人が見えますから。そういったものをフラットにつくってるのがすごい。作家はいいものつくろうって選ぶけど、職人はただ仕事をこなして売る人が選べばいいんです。
- H:
- 陶工人生で一番印象に残っている出来事は?
- K:
- 25と30の時に民藝館賞をとった時。あれはとった人にしか分からないと思う。下手だったんですけどね。

花が咲いたような浩二さんの美しい刷毛目。
- H:
- 生きるうえで大事にしていることは?
- K:
- アナログの大切さを忘れないこと。人との近さなのかな。今はなんでもメールとかいいね!とかで終わらせちゃうけど、待ち合わせで会えないことを許すのが人との付き合い。今はみんな横並びがいいって言うけど、双子の兄弟でも一つ一つ違うんだからそこを受け入れないと。
まっすぐな浩二さんの言葉は、携帯電話に頼りコミュニケーションが希薄になりつつある現代社会が忘れかけているものを思い出させてくれるような、ひとつひとつが心に響くものでした。小さな集落で同じ技法を用い、一子相伝で300年以上も伝統を守り続けている、と聞くと堅苦しく、不自由で型にはまった印象もありますが、つくり手さんとお話しすることで、その印象は一変しました。
あるレベルまで達しているつくり手さんは、とてもおおらかで、自由で、型破り。常により良いものを求め、自分の気持ちに素直に生きていることが分かりました。
「先人の知恵のおかげで今の小鹿田がある」という浩二さんの言葉を聞いて、「正しい美は、正しい社会の反映なのです。その背後には結合せられた人間がいるのです。すべてが互を支持して美を示さねばならないのです」といった柳宗悦の言葉を思い出しました。

- 平野 美穂
- 鎌倉在住
- 足繁くもやい工藝に通う3児の母。moyaisではFacebookやブログへの投稿を担当している。